Serge NICOLAS, Histoire de la psychologie française : Naissance d'une nouvelle science, coll. Psycho, In Press, 2002


 こっちに来て初めて読んだ本だ。教科書、だとおもう。いや長かった。といっても350ページぐらいだが。この人の本は二冊目。『フランス心理学の歴史』とあるので、学説史かと思ったがむしろ心理学部の歴史みたいなものだった。しかしこれが教科書なのだろうか。言ってみれば既得権益を守ろうとするものと新しい学問分野を作ろうとするものたちの戦いのようなものである。こんなある意味ドロドロしたことを学校の授業とかで学ぶのだろうか。別にドロドロしてないか。まあいろんな人の名前が出てきて勉強にはなったが。気づいたことを箇条書き。
 Frédéric PaulhanはJean Paulhanの父親だったらしい。父親はどうやらRibotと研究をともにしていたようで、それでおそらくPaulhanはRibotとも親交があったのだろう。以前Paulhanの若い頃の日記を見て、Ribotとか出てくるからなんでだろうと思っていたのだが、こういうことだったらしい。全然関係ないがMarcel FoucaultというのはMichelと関係があるのだろうか。
 Nicolasによると、心理学の歴史は、大学における固有の研究する場を獲得する歴史でもある。したがって学説史的に言うといかに哲学からはなれるかということが問題になったのであろう。それを行ってきたのがRibotであり、Piéronであるということになる。ちなみに、むかし(といっても50年ぐらい前)は大学において哲学や文学が入っていた学部はFacultés des Lettres aux Sciences Humainesだった。なんと言えばいいのだろうか、まあ「人文諸科学における文学部」という感じか。しかし今はFacultés des Lettres et Sciences Humainesとなっている。これは「人文諸科学および文学部」だろう。つまりちょっと範囲が広がった感じだ。このような拡大の一端を担っているのが心理学の学問としての独立だということだ。
 そう考えるとLacanなんかは反動的だったのではないだろうか。彼の理論はむしろこの流れの逆をいっているような気がする。実際この本には彼についての記述は本当に少ない。実際に大学での要職に就いていなかったらしい(でも探してはいた、と書いてある)のだが、心理学の独立と哲学の支配からの脱却という点からすると彼の精神分析はかなり異端だったのだろうか。確かに日本でLacanを研究している人がPiéronとか読んでるかというとちょっとどうなんだろう。そもそもLacanと心理学の間に切断があるのだろうか。まあLacanって文学理論家なような気がするのだが。
 しかしではなぜ医学部とかに心理学を組み込むということをしないんだろう。それは哲学的な土台みたいなものが必要であるということを認めているからなのだろうか。