最近、というかここ半年ぐらい、何かっていうと高橋ヒロシの『クローズ』と『WORST』のことばかり考えているような気がする。この両者は謎の戦闘をする少年マンガにありがちな問題を提示しているなあということを結構思う。読んだ順番は最初に『WORST』を13巻ぐらいまで読んで、そのあと『クローズ』をまとめて外伝とその後のやつもいっしょに読んで、そして『WORST』14巻という感じだ。要するに鉄生が死ぬ直前まで読んで、『クローズ』読了後鉄生死亡ということだ。

2chとかをみるとどっちが面白いかということが話題になっていて、だいたい『クローズ』のほうが面白かったという考えが大勢だったと思う。要はむかしはよかったというやつだが、かくいう僕もそう考えてしまっているかもしれない。

いや、でも作者の気持ちもわからないではない。『クローズ』って作者いうところの「不良」がたくさん出てくるが、「悪い」やつは実はあんまり出てきていない。「悪い」やつというのは要するに悪役だ。だから『WORST』ではそういうやつを出そうと思って、天地というキャラが生まれたのだと思う。不良のマンガでいいやつも悪いやつもねえだろとかちょっと思うけど、そのことが結構魅力を半減させてしまったかなあという気がいまのところしないでもない。要するに悪いやつとは何かということだ。

作中に出てくる表現を使っていえば、それは兵隊を集めようとするやつだ。兵隊というのはコマだから、使えなくなったら捨てられる。それに対して春道とか蓮次とかは兵隊じゃなくて仲間だ、という。仲間のことは決して見捨てないし、そいつのためには命(?)も張る。単純に言って『WORST』の鈴蘭のグループと竜胆のグループの違いってそこにあるわけだ。そして兵隊ということは戦うということだから、必然的に敵を想定するわけだ。だけど仲間の場合は必ずしも敵を想定する必要はない。

このことをちょっと言い方を変えていうと、天地を中心とした竜胆の連中にとって自分の兵隊ではない奴らは要するにやっつける対象であるわけだ。もっといえばそういう奴らと共存することは認められない。敵は軍門にくだるか戦い続けるかの選択を迫られる。一方鈴蘭の方にとってはまあ別にそういう仲間じゃない奴らがいても無理にやっつけようということにはならない。街の中であまり出会うことのないようにうまい具合に棲み分けもあるみたいだから、しょっちゅうぶつかってケンカになるということもない(場合がある)。要するに竜胆は多様性を認めないわけだ。世界には敵と味方しかいなくて、敵をどんどんやっつけていこうという考え方だな。それに対して鈴蘭的な考え方では、味方じゃないやつはたくさんいるだろうけど、まあいいだろう、と。このようにして多様性が認められる。

要するに『クローズ』では多様性を認めないやつがいなかったのだ。確かに強いやつはいる。そして春道的な「仲間を作れ」という考え方に与しないやつも多い。だけど多様性を認めないという考え方を実践に移すには一人ではだめで、天地のように組織を作らなければならない。ここにいいやつと悪いやつ、もっといえば多様性を認めるいい考え方とそれを認めない悪い考え方とのあいだの非対称性がある。いい考え方は個人であっても実践できるわけだ。だからブルみたいに黒焚連合みたいなものを作る必要はないし、そこに参加する必要もない。もちろんブルはいい考え方を実践するためにこういう組織を作ったわけだが。それとの関連でいうと『クローズ』ではいわゆる敵は内部にはいない。それはつねに外からやってくる。

まあそういう問題はいろいろあるんだろうけど、僕が気になったのはストーリー上の問題だ。『WORST』ではもはや竜胆対鈴蘭の様相を呈しているわけだから、その戦いと関係ないキャラがもはや出てきそうにない。要はキャラの貧困につながっている気がするんだな。鉄生の死もその文脈の中で捉えてしまった。つまり武装戦線ははやいところ村田将五へと代替わりして、武装ごと鈴蘭対竜胆に参戦してほしいんだろうなあと考えてしまった。

実はこういう悪のヒーローとそれによる多様性の拒絶というのは、とりわけジャンプ系の戦闘マンガに伝統的にあったものだと思う。物語そのものがその悪のヒーローに依存してしまっているわけだ。むかしの『キン肉マン』とか『北斗の拳』なんか典型だと思う。まあラオウとかはちょっと微妙で、本当に多様性を認めていないのかどうか判然としないのだが。それに対して『ハンター×ハンター』とかはむしろその多様性を重視する。そしてある意味でこの多様性はジャンプ的な能力インフレに対するある種の処方として機能したのだ。その意味では高橋ヒロシの作品はジャンプ系戦闘マンガの発展に逆行しているという感じなんだな。それが『クローズ』に対しての『WORST』の物足りなさなんだと思う。かといって『クローズ』を読んでいても、「みんな仲良くなっちゃうなあ」的な不満もあったのだが。いやあ難しいです。