精神分析/ホメオパシー

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こちらによるとホメオパシーは日本ではやりはじめているらしいのだが、確かにフランスではほとんどすべての薬局にホメオパシーのコーナーがあるぐらいに広まっている。確か保険も利いたかな。で、いま僕が考えていることとも関連している。


Artaudは30年前後かなりホメオパシーに惹かれていたわけだが、その理由はたぶんはっきりしている。いわゆる病因論(étiologie)と関連している。「病因論」って言葉が日本で流通しているかわからない、し、なんか非常に怪しい感じがする。まあ要は病気の原因を探る限界をどこに設定するかだ。容易にわかることだが素人が原因を探れば医学を超えてしまいかねない。で案の定Artaudは超えるわけ。そして彼自身そこのとに意識的だ。つまり、医学や生理学という狭い領域の中で(自分の)病気の原因などわかりはしない、もっといえば形而下的にはわかりはしない。そんな感じで神秘主義に傾く。この傾向にホメオパシーがぴったりくる。Artaud(というよりAllendy)によれば病気というものはいわば自然のある働きの結果みたいなものだから、人体だけを扱ってもしょうがない。そして問題なのは我々は自然の働きを知り尽くすことはできない。それは「科学で説明できないものがある」ということではなくて、原理的にわからない。これが出発点。原理的に病気の原因が分からない中でどうやって治療するかというのがホメオパシー的な課題であり、Artaud的な問題であったわけだ。この観点からするとアロパシー(いわゆる普通の医学)はちょっとおかしい。なぜならその治療は「原因」を除去することで治療しようとするからだ。Artaudにいわせればアロパシーがいうそれは原因ではない。なぜならそこで「原因」と呼ばれているものにはさらにそれに先立つ原因があるはずだからだ。そしてそれはどんどん遡行してゆき、何か我々の与り知らぬものへと至るはずだ。簡単にいうと科学では病気の原因は決してわかりはしない、だから彼は科学的ではない方法でそれを探ろうとした。そんなときにAllendyがやってきてホメオパシーを吹き込んだのだと思う。


当時、20年代から30年代のことだが、Artaudが病因論の問題で不満を持っていたのは医学というよりも心理学的な学説に対してであると思う。大胆にいってしまうと当時の心理学的な学説は「どうしてそういう症状がでるのか」という問いにはほとんど答えていない。そのような問いに答えているとなんとかいえるのは、かなり前の世代になるけど、Ribotぐらいだろうか。しかし彼は心理学的な症状を生理学的な問題に還元しているという意味においてであって、じゃあその生理学的な現象はどうして起こるの? という問いにはもちろん答えられない。そこいくと当時フランスに紹介されつつあった精神分析は非常に歯切れがいい。「原因はこれだー!」とはっきりいっている。思うにそれは自我の定義によるのだと思う。つまり、たとえばLacanの30年代頭にかかれた博論においては、自我を構成する要素のひとつとして「他者との社会的な関係性」というものがあげられている。だから親子関係とかなんとかが自我の形成に影響を与えるのだ、と。いまはどうか知らんが当時の心理学ではこれは結構新しかったのではないだろうか。とにかくArtaudはこういう自我の考え方に強く反発した。いろいろな理由があるが、一番大きな理由はこれを認めると自己診断ができないからだ。Anzieuもいうように、社会的な関係性が自我の構成要素になっているならば、自我を知るためにはその関係性を重ね、いわば弁証法的に知るしかない。精神分析が内省(introspection)を認めないのはそのためだ。


そんなわけで、Artaudのホメオパシーへの接近は、精神分析への理論的な反発とセットで考えることができるのではないかと考えていた。だけど、じゃあどうやって治療するか、ということを考えたとき、実は両者は結構近いんじゃないだろうか。フロイトが患者のトラウマを引き出そうとしたのは、ホメオパスが患者の症状と同じ症状を再生産するのと同じ意図があったのではないか。もちろん思いつきです。思いつきですが、以前からなんで患者のトラウマを意識化するとよくなるのかなあという疑問はあった。これに対して「いやこれはホメオパシー的な治療なんだよ」とか誰かがいってくれれば、ああそうかとか納得してしまう。


ああでも、ホメオパシーって人間の自然治癒力への信頼がないと成り立たないと思うけど、それってジャクソニズムとはなじまないかな。一方で精神分析で幼い頃のトラウマが自我の形成に影響を与えるってのはジャクソン的evolutionnismに乗っかっているような気がする。ううむ。よくわかんなくなってきた。まあそもそもホメオパシー精神分析もえせ科学だといわれているところから考えただけなので適当なのだが。でもフロイトホメオパシーの関係は何かしらないのだろうか。